2025年6月、総務省は地方公務員の副業・兼業に関する通知を改定し、営利企業での兼業を含む許可基準の明確化に踏み切った。これまで「原則禁止」のイメージが強かった公務員の副業だが、許可制のもとで柔軟に認める自治体が急増している。国家公務員についても、2024年度に兼業許可件数が過去最高を更新した。制度は確実に動いている。問題は「何が許され、何から始めればいいのか」を正確に知っている公務員がまだ少ないことだ。

この記事でわかること
  • 国家公務員法・地方公務員法が定める副業の制限と許可条件
  • 2025〜2026年に副業を解禁・許可基準を明確化した自治体の動向
  • 公務員が合法的にできる副業5選と具体例
  • 副業許可を得るための申請ステップと書類の書き方

公務員の副業、2026年の現在地

噴水のある公共施設の外観

国家公務員法と地方公務員法が定めるルール

公務員の副業を理解するには、まず法律の枠組みを押さえる必要がある。国家公務員は国家公務員法第103条(私企業からの隔離)と第104条(他の事業・事務への関与制限)によって兼業が制限されている。第103条は営利企業の役員を兼ねること、自ら営利企業を営むことを原則禁止する規定だ。第104条は報酬を得て兼業を行う場合に、内閣総理大臣および所轄庁の長の許可を必要とする規定である。

地方公務員については、地方公務員法第38条が同様の制限を定めている。任命権者の許可を得なければ、営利企業の役員を兼ねたり、自ら営利企業を営んだり、報酬を得て事業に従事したりすることはできない。

重要なのは、いずれの法律も「全面禁止」ではなく「許可制」を採用している点である。正しい手続きを踏めば、公務員でも合法的に副業ができる。「公務員は副業禁止」という認識は、法律の正確な理解とはいえない。

ただし、許可なく副業を行った場合は懲戒処分の対象となる。人事院が公表した事例では、勤務時間外に飲食店でアルバイトを行い報酬を得ていた職員に対し、減給処分が下されている。「バレなければ大丈夫」という考えは極めて危険である。

「許可制」と「届出制」の違いを正確に理解する

副業に関する自治体の制度は、大きく「許可制」と「届出制」に分かれる。許可制は、副業を行う前に所属機関の許可を得る必要がある制度で、申請が却下されれば副業はできない。国家公務員法・地方公務員法が定める原則的な枠組みは許可制である。

一方、届出制は副業の内容を届け出れば原則として認められる制度で、許可制よりもハードルが低い。神戸市や生駒市など、一部の先進的な自治体では地域貢献活動に限定して届出制を導入している。

どちらの制度であっても、共通して求められる条件がある。まず「職務遂行に支障がないこと」。勤務時間中の副業は当然不可であり、副業による疲労で本業のパフォーマンスが落ちることも認められない。次に「利害関係がないこと」。自分の所属部署が許認可や補助金交付を行う業界での副業は、利益相反の観点から却下される。最後に「信用失墜行為に該当しないこと」。公務員としての品位を損なうような副業は許可されない。

自分の所属する自治体・省庁がどちらの制度を採用しているかは、人事課に確認するのが最も確実である。内規や運用指針が部署ごとに異なるケースもあるため、「他の自治体でOKだったから自分もOK」という判断は避けるべきだ。

2025〜2026年に副業を解禁した自治体の動き

公務員の副業をめぐる環境は、2025年を境に大きく変わった。2025年6月、総務省が地方公務員の兼業許可基準を改定し、営利企業での従業員としての兼業を明確に許可対象に含めた。これまでは「公益性のある活動のみ」とする自治体が多かったが、この通知により民間企業での副業も許可の対象となった。

先行事例として知られるのが神戸市である。2017年に全国に先駆けて「地域貢献応援制度」を導入し、NPOや地域団体での副業を届出制で認めた。その後、生駒市、福井県、新潟市なども同様の制度を導入している。

2025〜2026年の動きとして注目すべきは、許可基準の具体化である。総務省の通知では、兼業時間の目安として「週8時間以内または月30時間以内」「勤務日において1日3時間以内」が示された。また、「兼業する事業の責任者とならないこと」「報酬が社会通念上相当と認められる範囲であること」なども明記された。

こうした動きの背景には、地方の人材不足がある。公務員の専門知識やスキルを地域社会に還元してもらうことで、行政だけでは対応しきれない課題を解決しようという狙いだ。副業解禁は、公務員個人のためだけでなく、地域社会全体のために進められている。


公務員が合法的にできる副業5選

ノートとペン

地域貢献型の活動(NPO・ボランティア報酬)

最も許可が下りやすいのが、NPO法人やボランティア団体での活動に対する報酬を得るケースである。神戸市の「地域貢献応援制度」をはじめ、多くの自治体が地域貢献型の副業を積極的に推奨している。

具体例としては、地域のまちづくり団体での企画運営、スポーツ少年団のコーチ、地域の防災活動の指導、環境保全活動のコーディネーターなどがある。報酬は活動1回あたり数千円〜1万円程度が一般的で、月額にすると1万〜5万円程度が目安である。

許可を得るポイントは、「地域課題の解決に資する活動であること」を明確に説明できるかどうかにある。単なるアルバイトではなく、公務員としての知識やスキルを活かして地域に貢献するという文脈が重要だ。

注意点として、NPO法人の「役員」に就任する場合は、国家公務員法第103条や地方公務員法第38条の「営利企業の役員」に準じた扱いとなる可能性がある。活動メンバーとして参加するのか、役員として経営に関与するのかで許可の可否が変わるため、事前に人事課に確認すべきである。

講師・セミナー登壇

公務員が持つ専門知識を活かして、大学の非常勤講師、研修講師、セミナー登壇を行う副業である。行政法務、防災、都市計画、福祉など、公務員だからこそ持っている現場の知見は、民間からの需要が高い。

報酬は、大学の非常勤講師で1コマ(90分)5,000〜15,000円、企業研修の講師で1回2万〜10万円、セミナー登壇で1回1万〜5万円が相場である。月に2〜3回登壇すれば、月収3万〜10万円程度を見込める。

講師業は、国家公務員法第104条の「報酬を得て他の事業に従事する」に該当するため、許可が必要である。ただし、教育・研究活動は公益性が高いと判断されやすく、許可が比較的下りやすいカテゴリーとされている。

実務上のポイントとして、所属機関の業務内容と直接関連するテーマで講師を行う場合、利益相反の観点から慎重な判断が求められることがある。たとえば、許認可を担当する部署の職員が、規制対象の業界団体で講師を行うケースは、利害関係が生じるため却下される可能性が高い。

執筆・メディア寄稿

書籍の執筆、雑誌への寄稿、Webメディアへの記事提供など、文筆活動で報酬を得る副業である。公務員の中には、専門分野に関する知見を書籍にまとめて出版している人も少なくない。

報酬は、書籍の印税で初版分10〜30万円程度(部数による)、雑誌寄稿で1本1万〜5万円、Webメディアの記事執筆で1本5,000〜30,000円が目安である。継続的に寄稿すれば、月数万円の安定した副収入になる。

執筆活動は「学術・文芸的活動」として許可されやすい傾向がある。特に、行政に関する解説記事や、公務員のキャリアに関する情報発信は、公益性が認められやすい。ただし、業務上知り得た機密情報を記事に含めることは、守秘義務違反(国家公務員法第100条、地方公務員法第34条)に該当するため厳禁である。

近年は、noteやブログでの情報発信を通じて執筆の実績を積み、そこから書籍化や寄稿依頼につなげる公務員も増えている。匿名での発信であっても、所属機関が特定できる内容を含む場合は注意が必要だ。

農業・不動産賃貸

農業と不動産賃貸は、公務員の副業の中でも古くから認められてきた分野である。実家の農地を耕作する、相続した不動産を賃貸に出すといったケースは、多くの自治体で許可実績がある。

農業の場合、小規模な家庭菜園レベルの販売は許可不要とされることが多いが、一定規模以上の営農は「自ら営利企業を営む」に該当するため許可が必要になる。不動産賃貸は、人事院規則14-8で「5棟10室以上」「年間収入500万円以上」を「営利企業に該当する規模」と定めており、この基準を超える場合は許可が必要である。

不動産賃貸の魅力は、管理を不動産会社に委託すれば、本業への影響がほとんどないことである。物件の管理、入居者対応、家賃回収などを外部に任せることで、「職務遂行に支障がない」という許可条件を満たしやすい。

注意点として、不動産投資を拡大しすぎると「自ら営利企業を営む」と判断されるリスクがある。また、公務員の立場を利用して不動産取引で優位に立つことは信用失墜行為に該当する可能性があるため、取引は公正に行うべきである。

家業の手伝い

実家が自営業を営んでいる場合、家業の手伝いとして報酬を得ることが許可されるケースがある。農家、商店、飲食店、旅館など、家業の内容は多岐にわたる。

許可を得るためのポイントは、「経営に関与しない」ことを明確にすることである。経営の意思決定に参加する立場(代表、役員など)は、国家公務員法第103条に抵触するため認められない。あくまで「従業員としての手伝い」という位置づけで、勤務時間外に限定して行うことが条件となる。

報酬の水準も重要な判断材料になる。家業の手伝いに対する報酬が、同種の業務の市場相場と比べて著しく高い場合は、実質的な利益供与と見なされる可能性がある。社会通念上相当と認められる範囲に収めることが必要だ。

家業の手伝いは、家族の事情(高齢の親の負担軽減など)を丁寧に説明することで、許可が下りやすくなる。「親の介護と家業の維持を両立するために必要」といった具体的な理由を、申請書に明記することが効果的である。


副業許可を得るための申請ステップ

スーツの女性が男性に書類を見せている場面

所属長への事前相談で押さえるポイント

副業の許可申請は、いきなり書類を提出するのではなく、まず所属長(課長・部長など)への事前相談から始めるのが鉄則である。いきなり申請書を出すと、所属長が「聞いていない」と感じ、心理的にネガティブな反応を示すことがある。

事前相談では、以下の4点を整理して伝えるとスムーズである。まず「何をするのか」:副業の具体的な内容、活動場所、相手先。次に「なぜやるのか」:地域貢献、スキル活用、家庭の事情など、合理的な理由。3つ目に「本業に影響しないこと」:活動時間が勤務時間外であること、体力的・精神的に無理がないこと。最後に「利害関係がないこと」:所属部署の業務と副業先の間に特殊な関係がないこと。

相談のタイミングも重要だ。繁忙期や人事異動の直後は避け、業務が落ち着いている時期を選ぶ。また、所属長が副業に対してどのようなスタンスを持っているかを、日頃の会話の中でさりげなく探っておくのも有効である。

所属長が前向きであれば、人事課への正式な申請手続きに進む。所属長が難色を示した場合は、その理由を確認し、懸念を解消できる材料(他の自治体の許可事例、総務省の通知など)を準備して再度相談するのが得策である。

申請書類の書き方と実例

副業の許可申請には、所属機関が定める「兼業許可申請書」(名称は自治体により異なる)を提出する。一般的に求められる記載事項は、兼業先の名称・所在地・事業内容、従事する業務の内容、従事する期間・曜日・時間帯、報酬の額(見込み)、兼業が職務遂行に支障を及ぼさない理由である。

書き方のポイントは、「許可基準に合致していること」を客観的なデータで示すことだ。たとえば「職務遂行に支障がない」と書くだけでなく、「活動は土曜日の10時〜13時に限定し、月2回を上限とする。直近1年間の有給休暇取得率は30%であり、本業の業務量に余裕がある」のように、具体的な数字を添えると説得力が増す。

添付書類として、兼業先の団体概要(パンフレットやWebサイトの印刷)、活動内容がわかる資料(募集要項、業務委託契約書の案など)を求められることが多い。事前に兼業先から必要な書類を入手しておくとスムーズである。

申請から許可までの期間は、自治体によって異なるが、通常2週間〜1か月程度である。人事課での審査、場合によっては人事委員会での審議を経て許可が下りる。活動開始日から逆算して、余裕を持って申請することが重要だ。

許可が下りやすいケースと却下されるケース

許可が下りやすいのは、以下のような条件を満たすケースである。まず「公益性が高い活動」。NPO法人での地域貢献活動、大学での非常勤講師、防災ボランティアの指導など、社会的意義が明確な活動は許可されやすい。次に「本業との関連性が低い活動」。所属部署の業務と直接関係しない分野での副業は、利益相反のリスクが低いため許可が下りやすい。

一方、却下されやすいのは次のようなケースである。「勤務時間との両立が困難」と判断される場合。深夜帯の飲食店勤務や、平日日中の活動は却下される可能性が高い。「利害関係が存在する」場合。自分の所属部署が補助金を交付している団体や、許認可の対象となる企業での副業は、利益相反と見なされる。「信用失墜行為に該当する」場合。風俗営業、マルチ商法、ギャンブル関連など、公務員としての品位を損なうと判断される活動は許可されない。

グレーゾーンとして判断が分かれるのが、「クラウドソーシングでのWebライティング」「個人ブログでのアフィリエイト収入」「YouTube等での動画配信」などのオンライン副業である。これらは自治体ごとに判断が異なるため、必ず自分の所属機関に確認する必要がある。一般論として、匿名で行う場合でも許可は必要であり、無許可での実施は懲戒処分のリスクがある。

却下された場合でも、条件を変更して再申請することは可能である。たとえば「活動時間を減らす」「報酬を辞退して無報酬にする」「兼業先を変更する」など、許可基準に合致するよう調整すれば、再申請で許可が下りるケースもある。


まとめ — 公務員の副業は「制度を味方にする」が鉄則

地域事務所の入口サイン

2025年の総務省通知以降、公務員の副業環境は確実に前進している。「公務員だから副業できない」という時代は終わりつつある。ただし、制度を正しく理解し、正規の手続きを踏むことが大前提だ。

タイプ別のおすすめ副業を以下にまとめた。

あなたのタイプおすすめ副業許可の取りやすさ月収目安
地域活動に関心があるNPO・ボランティア報酬★★★★★1万〜5万円
専門知識を活かしたい講師・セミナー登壇★★★★☆3万〜10万円
文章を書くのが得意執筆・メディア寄稿★★★★☆1万〜5万円
実家に農地・不動産がある農業・不動産賃貸★★★★☆数万〜数十万円
実家が自営業家業の手伝い★★★☆☆1万〜5万円

まずは自分の所属機関の人事課に「副業・兼業の許可基準」を確認することから始めてほしい。制度を正しく使えば、公務員としてのキャリアを守りながら、新しい可能性を広げることができる。