人事院は2026年4月、国家公務員の兼業規制を大幅に緩和した。これまで原則禁止とされてきた自営業型の副業について、趣味や特技を活かした事業であれば各府省庁の承認を得て行えるようになった。人事院と内閣人事局が2025年2月に公表した意識調査によれば、兼業を希望する国家公務員は全体の32.9%にのぼる(2026年4月現在)。本記事では、今回の規制緩和で具体的に何が変わり、何が依然として認められないのかを整理する。
この記事でわかること
- 2026年4月の兼業規制緩和の具体的な内容
- 許可される副業と依然としてNGな副業の境界線
- 申請手続きの流れと必要書類
- 地方公務員への波及と今後の見通し
- タイプ別のおすすめ副業
2026年4月の兼業規制緩和で何が変わったのか
規制緩和の背景
国家公務員法第103条および第104条は、営利企業への従事を原則として禁止してきた。これは公務の中立性と信用を守るための措置であり、長年にわたって厳格に運用されてきた制度である。
しかし近年、民間企業での副業解禁が急速に進み、働き方の多様化が社会全体のトレンドとなった。公務員だけが副業を全面的に制限される状況は、優秀な人材の確保という観点からも課題となっていた。
人事院は2024年12月に自営兼業制度の見直しを発表し、従来は不動産賃貸・太陽光発電・家業継承の3分野に限られていた自営兼業の対象を拡大。「職員の有する知識・技能をいかした事業」および「社会貢献に資する事業」を新たに承認可能とし、2026年4月から施行された。
改正のポイント
今回の規制緩和で最も大きな変更点は、個人事業主としての自営業が一定条件のもとで認められるようになったことである。従来は、報酬を得る活動はほぼ例外なく制限の対象だった。
具体的には、職員の知識・技能を活かした事業または社会貢献に資する事業であること、公務の信用を傷つけないこと、職務に支障がないことの要件を満たせば、各府省庁の承認を得て副業を行える。開業届の提出と事業計画の作成が必須とされている。
なお、今回の緩和はあくまで「自営業型」に限定されている。営利企業への就職や役員就任については、従来どおり制限が維持されている点に注意が必要である。
許可される副業の具体例
手芸品・ハンドメイド品の販売
アクセサリーや布小物、陶芸作品などを制作し、オンラインマーケットやフリマアプリで販売する形態が許可対象となる。minneやCreemaといったハンドメイドマーケットの活用が想定されている。
ポイントは「趣味の延長線上」であること。大量生産・大量販売のようなビジネス規模になると、自営業の範囲を超えると判断される可能性がある。事業計画には月間の想定売上や作業時間を明記し、本業への影響がないことを示す必要がある。
販売にあたっては、公務員の身分を利用した宣伝行為は禁止される。SNSでの販促活動も、職務上の立場を匂わせる表現は避けなければならない。
スポーツ教室の運営
ヨガ、ランニング、テニスなどのスポーツ教室を休日に開催する形態も認められる。地域のコミュニティセンターや公園を活用した少人数制の教室が典型例である。
指導資格の有無は許可の必須条件ではないが、資格を持っていれば承認を得やすいとされる。週末や祝日に限定し、平日の勤務時間に影響しないスケジュール設計が求められる。
参加者からの受講料は事業収入として確定申告の対象となる。年間の売上規模や経費の管理方法も事業計画に盛り込む必要がある。
芸術・音楽活動
絵画の販売、書道教室の開催、楽器演奏のレッスンなど、芸術分野での副業も許可対象である。個展の開催やギャラリーへの出品も、公務との兼ね合いが問題なければ認められる。
音楽活動については、バンド演奏やライブハウスでの出演なども対象となりうる。ただし、深夜営業の飲食店での定期演奏のように、生活リズムに影響を及ぼすケースは承認が難しい場合がある。
芸術分野は収益化までに時間がかかることが多いため、事業計画では中長期的な見通しを示すことが重要である。赤字が続いても「趣味の延長」として認められるが、事業継続の見込みは説明できるようにしておきたい。
地域貢献型の活動
地域イベントの企画・主催や、高齢者の買い物代行サービスなど、社会貢献性の高い活動も許可される。公務員の知見を地域に還元するという観点から、むしろ積極的に推奨される分野である。
NPO法人や一般社団法人の活動への参加も従来から認められていたが、今回の改正により、個人事業としてこれらの活動を行い、対価を得ることも可能になった。
地域貢献型の副業は承認を得やすい傾向にあるとされる。自治体との連携や地域課題の解決につながる事業であれば、公務との親和性も高いと評価されやすい。
依然としてNGな副業
営利企業の役員就任
株式会社や合同会社の取締役、監査役などへの就任は、引き続き認められない。国家公務員法第103条が禁じる「営利企業の役員等の兼業」に該当するためである(2026年4月現在)。
家族が経営する企業であっても例外ではない。名義だけの役員就任であっても法的には兼業に該当するため、形式的な就任も避けるべきである。
なお、非営利法人(NPO法人、一般社団法人等)の役員については、従来から一定の条件のもとで認められており、この点に変更はない。営利と非営利の区別が重要になる。
株式会社の設立
自ら法人を設立して事業を行うことも認められていない。今回の規制緩和はあくまで個人事業主としての自営業に限定されており、法人格を持つ事業体の設立は対象外である。
将来的に副業を法人化したいと考える場合は、退職後または制度のさらなる緩和を待つ必要がある。個人事業の規模が拡大した場合に法人成りを検討するケースも想定されるが、現時点では在職中の法人設立は不可である。
合同会社やマイクロ法人といった小規模な法人形態であっても、法人である以上は制限の対象となる。事業形態の選択には注意が必要である。
フルタイム副業
本業と同等以上の時間を副業に費やすことは認められない。あくまで「公務に支障がない範囲」が大前提であり、副業が主業化することは制度の趣旨に反する。
具体的な時間制限は明文化されていないが、各府省庁の承認審査において週あたりの副業時間は重要な判断材料となる。目安として、週10時間以内が一つの基準とされている。
超過勤務が常態化している部署に所属する職員は、そもそも副業の時間確保が難しく、承認を得にくい傾向がある。自身の勤務実態を踏まえた現実的な計画が求められる。
| 副業の種類 | 可否 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 手芸品のオンライン販売 | 許可制で可 | 第104条(許可基準改正) |
| スポーツ教室の開催 | 許可制で可 | 第104条(許可基準改正) |
| 営利企業の役員就任 | 不可 | 第103条 |
| 株式会社の設立 | 不可 | 第103条 |
| フルタイム副業 | 不可 | 第104条(職務専念義務) |
申請手続きの流れ
事前準備と開業届の提出
副業を始めるにあたり、まず税務署への開業届の提出が必要となる。開業届は事業開始日から1か月以内に提出するのが原則だが、兼業許可の申請時点では「提出予定」として手続きを進められる。
あわせて事業計画書の作成が求められる。事業の概要、想定される収入と支出、副業に充てる時間、本業への影響がないことの説明などを記載する。フォーマットは各府省庁が指定するものを使用する。
事業計画書は形式的なものではなく、承認審査の核となる書類である。収益見通しが非現実的であったり、時間配分に無理があったりすると、差し戻しや不承認の原因になる。
所属部署での事前相談
正式な申請の前に、直属の上司への事前相談が推奨されている。制度上は相談なしに申請することも可能だが、上司の理解を得ておくことで承認プロセスがスムーズになる。
事前相談の段階で確認すべきポイントは、副業の内容が所属部署の業務と利益相反しないか、繁忙期に副業が重ならないか、緊急時の対応体制に影響がないかの3点である。
特に利益相反の確認は重要である。たとえば、許認可を担当する部署の職員が、許認可対象となる業界で副業を行うケースは承認が困難とされる。
各府省庁への承認申請
事前準備が整ったら、各府省庁の人事担当部署に兼業許可申請書を提出する。申請書には事業計画書、開業届の写し(または提出予定の旨)、副業の内容を説明する資料を添付する。
審査期間は府省庁によって異なるが、おおむね2週間から1か月程度とされている。追加の資料提出や面談を求められることもある。承認は原則として1年ごとの更新制であり、毎年の実績報告も義務付けられている。
不承認の場合は理由が通知され、内容を修正のうえ再申請することが可能である。不承認理由として多いのは、事業内容と職務との利益相反、時間的な余裕の不足、事業計画の具体性不足の3つである。
地方公務員への波及
地方公務員法の現状
地方公務員の兼業については、地方公務員法第38条が規制している。国家公務員法と同様に営利企業への従事を制限する内容であるが、具体的な運用は各自治体の条例や規則に委ねられている部分が大きい。
2026年4月現在、国家公務員と同等の規制緩和を実施した自治体はまだ少数にとどまる。ただし、神戸市や生駒市など、独自に副業を推進してきた先進自治体の取り組みは注目されている。
地方公務員の場合、地域密着型の副業が公務と密接に関わるケースも多く、利益相反のリスク管理がより複雑になる。そのため、国よりも慎重な姿勢をとる自治体が多いのが現実である。
今後の見通し
総務省は2026年度中に、地方公務員の兼業に関するガイドラインを改定する方針を示している。国家公務員の規制緩和を受けて、地方公務員についても同様の方向性が示される見込みである。
ガイドライン改定後は、各自治体が独自の条例改正を行う流れになると想定される。早い自治体では2026年度後半から、多くの自治体では2027年度にかけて段階的に緩和が進む可能性がある。
地方公務員が副業を検討する場合は、所属する自治体の人事担当部署に最新の制度状況を確認することが第一歩となる。自治体ごとに対応が異なるため、一般論だけで判断するのは避けるべきである。
まとめ──公務員副業の現実的な一歩
2026年4月の規制緩和により、国家公務員の副業は「原則禁止」から「条件付き許可」へと大きく転換した。ただし、全面解禁ではなく、趣味・特技を活かした自営業に限定された段階的措置である点を理解しておく必要がある。
許可を得るためには、開業届の提出、事業計画書の作成、各府省庁の承認という3つのステップが必要であり、特に事業計画書の完成度が承認の鍵を握る。「公務に支障がない」ことを客観的に示せるかどうかが、申請の成否を分ける。
以下に、タイプ別のおすすめ副業をまとめた。
| タイプ | おすすめ副業 | 想定月収 | 必要な準備 |
|---|---|---|---|
| ものづくりが好き | 手芸品・ハンドメイド販売 | 1万〜5万円 | 販売プラットフォームへの登録、作品ポートフォリオ |
| 体を動かすのが好き | スポーツ教室の開催 | 2万〜8万円 | 会場の確保、指導カリキュラムの作成 |
| 芸術・表現に関心がある | 絵画販売・音楽レッスン | 1万〜10万円 | 作品制作、レッスンプランの策定 |
| 地域に貢献したい | 地域イベント主催・買い物代行 | 1万〜3万円 | 地域ニーズの調査、協力者の確保 |
公務員の副業はまだ始まったばかりの制度であり、今後の運用実績を踏まえてさらなる緩和が検討される可能性もある。まずは自身の趣味や特技を棚卸しし、無理のない範囲で最初の一歩を踏み出してみてはどうだろうか。