この記事でわかること
- こども誰でも通園制度の目的と法的根拠
- 対象年齢・利用時間・利用料金の具体的な条件
- 自治体ごとの導入状況と地域差
- 保護者・保育現場の声と今後の課題
こども誰でも通園制度とは
制度創設の背景
日本の出生数は2024年に約70万人を割り込み、過去最少を更新した。少子化の大きな要因のひとつに「育児の孤立化」がある。特に専業主婦(夫)世帯や育休中の家庭では、保育園を利用できないために親が一人で子どもを見続ける状況に陥りやすい。こうした家庭では、外部との接点が乏しくなり、育児ストレスや産後うつのリスクが高まるとされている。 こども家庭庁はこの問題に対処するため、「すべての子どもの育ちを社会全体で支える」という理念のもと、就労要件を問わない新たな通園給付制度の創設に踏み切った。従来の保育制度は「保護者が働いている」ことを前提としており、在宅育児世帯は制度の対象外だった。この構造的な課題を解消することが、制度の最大の目的である。 2023年度からモデル事業(試行的事業)が開始され、2024年度には全国115の自治体に拡大。利用者・保育施設の双方から得られたデータをもとに制度設計が進められ、利用者・保育施設の双方から得られたデータをもとに制度設計が進められた。モデル事業の結果、保護者の56.3%が「子どもが新しいことに取り組む機会が増えた」と回答するなど、一定の効果が確認されている。法的根拠と制度の位置づけ
こども誰でも通園制度は、2024年の子ども・子育て支援法改正により法制化された。2025年度は「地域子ども・子育て支援事業」として制度化し、2026年度からは同法に基づく「新たな給付」として全国の自治体で実施されている。 従来の一時預かり事業との大きな違いは、給付としての位置づけにある。一時預かりは自治体の任意事業であり、実施の有無や条件は自治体ごとにばらつきがあった。一方、こども誰でも通園制度は法定給付であるため、全自治体に実施義務が生じる。この点が、制度の安定性と普遍性を担保する重要なポイントである。 制度設計にあたっては、こども家庭庁の有識者会議が繰り返し議論を重ねた。「保育の質を維持しながら、すべての子どもにアクセスを保障する」という両立が最大の論点であり、利用上限時間の設定や受入体制の基準が慎重に検討された。制度がもたらす社会的意義
本制度の社会的意義は、「保育を必要とする子ども」の定義を拡張した点にある。これまで保育は「就労する保護者のための福祉サービス」という性格が強かったが、こども誰でも通園制度は「すべての子どもが良質な集団生活を経験する権利」という視点へのパラダイムシフトを体現している。 北欧諸国では、保護者の就労有無にかかわらず子どもが保育施設を利用できる仕組みが一般的である。日本の新制度は、こうした国際的な潮流にも合致するものだ。子どもの社会性や非認知能力の発達において、家庭外での多様な経験が果たす役割は大きい。 また、保護者にとっても「自分の時間」を確保できることは、育児の持続可能性を高める重要な要素である。リフレッシュや通院、就職活動、きょうだいの学校行事への参加など、育児以外の活動に充てる時間が保障されることの意味は大きい。対象・利用条件・利用時間
対象となる子ども
制度の対象は、0歳6か月から満3歳未満の子どもである。具体的には、3歳の誕生日の前々日まで利用が可能だ。ただし、すでに保育所、認定こども園、地域型保育事業、企業主導型保育事業所に在籍している子どもは対象外となる。 つまり、この制度は「現在どの保育施設にも通っていない子ども」を主なターゲットとしている。幼稚園に通う満3歳以上の子どもは当然対象外だが、満3歳未満で幼稚園のプレ保育のみ利用しているケースについては、自治体によって判断が分かれる場合がある。 利用にあたっては、居住する自治体への申請が必要であり、「こども誰でも通園制度」専用のポータルサイト(こども家庭庁が運営)から手続きができる自治体も増えている。利用時間の上限
子ども1人あたりの利用上限は、月10時間である。この時間は、1回あたりの利用時間ではなく、1か月の合計時間を指す。たとえば、週1回2時間の利用を月4回行えば8時間、週1回3時間を月3回行えば9時間といった使い方が想定されている。 モデル事業では、月10時間の上限について「少なすぎる」という保護者の声も少なくなかった。特に「慣らし保育」に数回分を使ってしまうと、実質的な利用回数が限られるという指摘がある。一方、保育現場からは「これ以上の受入は人員的に困難」との意見も根強く、現行の月10時間は双方の折衷案として設定されたものである。 将来的には利用上限の引き上げも検討課題とされているが、2026年度時点では月10時間で運用が開始されている。利用料金
利用料金は1時間あたり300円程度に設定されている。月10時間をフルに利用した場合、月額約3,000円の負担となる計算だ。この金額は、民間の一時預かり(1時間1,000円から2,000円程度が相場)と比較すると大幅に低く設定されており、経済的な利用障壁を下げる意図がある。 ただし、利用料の徴収方法については課題が残る。2026年4月時点で、3自治体に1つが現金回収を行っており、保護者の小銭準備や保育現場での金銭管理が負担になっているとの報告がある。キャッシュレス決済の導入やシステム化が今後の運用改善の鍵となるだろう。自治体別の導入状況
全国展開の現状
2026年4月の制度施行により、全国の自治体が実施主体として動き出している。ただし、「全自治体で同時に万全の体制が整った」わけではない。特に小規模自治体では、受入施設の確保や人員の配置に苦慮しているケースがある。 都市部では比較的多くの保育施設が受入を表明しているが、農村部や過疎地域では対象施設が限られる場合もある。こども家庭庁は、認可保育所だけでなく、認定こども園や小規模保育事業所、さらには地域子育て支援拠点との連携による受入も推進している。 モデル事業に参加した115自治体の経験は、本格実施にあたっての貴重な知見となっている。モデル事業で蓄積されたノウハウを他自治体に共有する仕組みも整備されつつある。先行自治体の取り組み
神奈川県開成町は、2026年4月の制度開始と同時に運用をスタートさせた自治体のひとつである。同町では、町内の認可保育所と連携し、予約システムをオンライン化することで保護者の利便性を高めた。 また、都市部の大規模自治体では、複数の施設から選べる「マッチング型」の仕組みを導入しているところもある。保護者がスマートフォンから空き状況を確認し、希望する施設と日時を予約できるシステムは、利用率の向上に寄与している。 一方で、地方部の自治体では「対象施設が1か所しかない」というケースもあり、利用日時の選択肢が限られるという地域格差が生じている。地域間格差への対策
こども家庭庁は、地域間格差を是正するための支援策を講じている。具体的には、受入施設の整備費補助や、保育人材の確保に向けた処遇改善加算の拡充などが実施されている。 また、広域連携により、居住自治体以外の施設を利用できる仕組みの構築も検討されている。たとえば、勤務先に近い隣接自治体の施設を利用したいというニーズは少なくないが、現時点では自治体間の調整が必要であり、全国的な広域利用の実現にはまだ時間がかかる見通しである。 制度の定着に向けては、各自治体のベストプラクティスを共有し、運用の標準化を進めることが重要となる。保護者の声と課題
保護者が感じるメリット
モデル事業に参加した保護者へのアンケートでは、子どもの変化として最も多かったのが「新しいことに取り組む機会が増えた」(56.3%)だった。次いで「保護者以外に甘えられる場所や人ができた」「いろいろな遊びを覚えた」(いずれも35.3%)が続く。 保護者自身にとっても、「育児から一時的に離れることでリフレッシュできた」「通院や手続きなど、子ども連れでは難しい用事を済ませられた」といった声が多く寄せられている。特に第一子の育児中で周囲にサポートがない家庭からは、「孤独感が軽減された」という感想が目立つ。 料金が1時間300円程度と低額である点も、利用のハードルを下げる要因として評価されている。民間のベビーシッターや一時預かりと比較して、経済的な負担が大幅に軽いことが利用促進につながっている。保育現場が抱える課題
一方で、保育現場からは深刻な課題が報告されている。モデル事業に取り組んだ自治体のうち、81.6%が「保育者の確保」を最大の課題として挙げた。通常の在園児の保育に加えて、不定期に利用する子どもを受け入れるためには、追加の人員配置が不可欠だが、慢性的な保育士不足のなかでその確保は容易ではない。 また、「慣れていない子どもの安全管理」も大きな懸念事項である。毎日通園する在園児とは異なり、月数回しか来ない子どもは園の環境に慣れていないため、園外活動や食事の場面で特別な配慮が求められる。在園児の保護者からも「保育の質が低下するのではないか」という声が上がっている。 利用料金の徴収方法についても、3分の1の自治体が現金回収を行っているという現実がある。保育士が金銭管理まで担うことへの負担感は大きく、ICTシステムの導入が急務とされている。制度の今後の方向性
こども家庭庁は、2026年度の本格実施後も制度の検証と改善を続けるとしている。利用上限時間の引き上げ、対象年齢の拡大、広域利用の実現などが中長期的な検討課題として挙げられている。 保育人材の確保については、処遇改善だけでなく、保育補助者やボランティアの活用、ICTによる業務効率化など、多角的なアプローチが必要である。また、制度の周知・広報も重要であり、対象となる家庭に情報が届いていないケースも少なくない。 制度が真に「すべての子どもの育ちを支える」ものとなるためには、初年度の課題を丁寧に検証し、柔軟に改善していく姿勢が求められる。まとめ
| タイプ | おすすめの活用法 | ポイント |
|---|---|---|
| 専業主婦(夫)家庭 | 週1回2時間からスタート | 子どもの社会性発達とリフレッシュの両立 |
| 育休中の家庭 | 復職準備として活用 | 慣らし保育の代わりに園の雰囲気を体験 |
| 在宅ワーク家庭 | 集中作業時間の確保に | 月10時間を計画的に配分 |
| きょうだいがいる家庭 | 上の子の行事・通院時に | 預けられる安心感が育児負担を軽減 |
Point:まずは自治体の窓口やポータルサイトで対象施設を確認しよう
制度は全国で始まったが、受入施設や予約方法は自治体によって異なる。こども家庭庁の「こども誰でも通園制度」公式サイト(daretsu.cfa.go.jp)や、居住自治体の子育て支援窓口で最新情報を確認することをおすすめする。